21世紀に必要な能力とは(AIと共生する社会)
シンギュラリティは到来しない!
簡単に言ってしまうと、人工知能(AI)の自立的な発達で、人間の能力を超えてしまう時が来るという幻想は今のところこないということ。
「AI vs 教科書が読めない子どもたち」の著書の中で新井紀子氏が述べた言葉です。
「鉄腕アトム」や「サイボーグ009」など手塚治虫氏や石ノ森章太郎氏が漫画で描いたような人間の心を持ち、人間の能力をはるかにこえたロボットは現在のコンピューターを使っている限り、「夢のまた夢」という結果が、彼女の研究でわかったそうです。
IphoneやGoogleでは話しかけるとあたかも適切な返事が返ってきて、まるで私たち人間の心と交信しているように感じますが、実は確立と統計を駆使しているだけで応用力は全くないそうです。しかし、AIに膨大なデーターを記憶させ、パターン化された問題をインプットすれば、Marchあたりの大学には合格できるレベルまでにはなるそうです。「東京大学をAIが合格できるか」…東京大学に合格するAI「東ロボ」を作るプロジェクト…というテーマで研究を続けてきた結果だそうです。偏差値57.1あたりで限界が訪れました。AIでは、それ以上の難関大学や旧帝国大学などには合格できないそうです。それはなぜか?人間の思考パターンや行動パターンは様々で、それらのデーターを入力するにはあまりにも膨大すぎること、また曖昧なことが多すぎることが原因だそうです。一つの例は「常識」というものをどうインプットするかでした。二つ目は感情起伏や発想力をパターン化できない。コンピューターはあくまで計算機なので、計算は速く、記憶量も多くできるのですが、曖昧なものや応用的な発想そのものをインプットできないということです。難関大学の問題は知識力だけでなく、知識や常識を駆使した応用力やアウトプットする能力を試されるのです。そのためには高度の読解力が要求されるそうです。その読解力は上述したように高度の常識が必要になり、発想力や展開力が必要不可欠なのです。コンピューターではその情報を記憶することはできません。
そして、彼女はAI研究の中で、「東ロボ」君のために、読解力の調査を始めました。すると、とんでもない結果が表れたのです。多くの人が文章を正確に読めていない現実を知ることになったのです。多くの人とは、調査対象が中学生・高校生・大学生だけでなく、一流企業の社員や学校の教師にいたる大人までその研究対象を広げた結果でした。詳細は彼女の著書を読んでください。
そして、彼女は警告しています。AIができない仕事に就くには、コミュニケーション能力と基礎的読解力と柔軟な判断力・発想力を身につけなければならないと、パターン化された仕事はAIにとってかわられるので、今の現状では人間の仕事は半減する。つまり、ここ数十年で失業者が労働人口の半分になる。AIができない仕事をするスキルを身に着けなければ、生きていけない社会になる。それは、学校教育の中で、まず基礎的な文章読解力を身につけさせ、そして、集団の中で人とのコミュニケーション能力を養い、そのためにも自分で勉強できる能力を身に着けることだと彼女は述べています。
彼女は「一に読解、二に読解、三、四は遊びで、五に算数」と・・・さらに、その遊びは手先を器用にするモノに頼らない遊びだそうです。
今の世の中はどうでしょうか?
外国語の習得を幼い時から始めさせり、2020年には小学校から英語が教科として導入されます。日本語の読解力やコミュニケーション能力もないのに…AIを使って何でもできるかのような錯覚をして、ドリルをデジタル化して項目反応理論を用いることで「それぞれの子供の進度にあったドリルをAIが提供します」と言わんばかり、プログラミングのパソコン教室、タブレットなどのデジタル教材を利用する学習塾や学校が増えています。問題を正確に読まずにパターン化されたドリルをこなす能力は、最もAIに代替されやすい能力なのにです。
そして、数学者である彼女が最もシンプルにこう述べています。
『教科書が読めなければ、予習も復習もできません。自分一人では勉強もできず、ずっと塾に通わなければなりません。けれども大学には塾はありません。社会に出ればもちろんです。勉強の仕方がわからないまま社会に出てしまった人たちはどうなるのか。運転免許が取れなかったり、調理師になれなかったりするだけではありません。AIに仕事を奪われてしまいます。』(抜粋)と
また、こんなことも
『今や、格差というのは、名の通る大学を卒業したかどうか、大卒か高卒かというようなことで生じるのではありません。教科書(マニュアル)が読めるかどうか、そこで格差が生まれています。』(抜粋)と
港北学館は20年前から、教科書中心の授業を展開してきました。そして、自分で勉強できるようになること(自立学習と呼ぶ)を目標にしてきました。そのためには、教科書が読めること、ノートまとめができること、この2点を重視した取り組みをしてきましたが、この取り組みには時間がかかります。結果もすぐに思うように上がりません。途中でリタイアして辞めていく生徒も多々いました。しかし、多くの卒業生が立派に自分の進路を切り開いていることも事実です。私は生徒たちが自分の頭と足で自分の人生を切り開いてくれることを期待しています。今回のこの本で「教科書を読める能力が大切だ」ということをあらためて確認できたとことは、当学館の方針は間違いではないと確信しました。